・・・およそ2分後・・・
所属不明機のインターセプトコースをとったわたしは、コクピットキャノピー越しにその機影を目視可能な距離まで接近した。
肉眼で観察した限りで機体にはほとんど外傷は無かったが、とりわけ異常と言えば何故か機体の明かりが全く灯されてなく、唯一機体サイズを示す小型ランプが数箇所点滅している事。
またあるとすれば、そのスピードが異常だった。
宇宙開発が急激に進歩した今日、その副産物として宇宙空間には「スペースダスト」と呼ばれる大小様々なサイズのゴミが無数に漂っていた。
宇宙空間には地球上の「大気」という抵抗要素がないため、それら大小のゴミのほとんどは高速で移動している。
この「スペースダスト」の密度は宙域によって大きく差があり、ここのように大きな事故などの発生したばかりの宙域ではその残骸などによりダスト密度が非常に高く危険な為、一時的措置として該当する宙域を「危険宙域」として軍の管理下に置き、一般の侵入を大きく制限していた。
現在この所属不明機の速度は法により定められている航路通行速度上限を明らかに上回っており、軍用機の様にダスト密度の高い宙域での活動を前提としない設計の民間機でこの宙域を入るのはまさに「自殺行為」としか思えなかった。
「右舷上部2時方向、ダスト3」
「左舷下部11時方向、ダスト1」
「左舷上部・・・」
次々と飛来する大小様々なサイズのダストをセンサーで補足し、可能な限り機体のレーザー攻撃で進路修正もしくは破壊を行い所属不明機への衝突を回避しているが・・・そう長くはもたないだろう。
「現状はどうなってる?」
不意に聞き慣れた声が耳に入り、一瞬それまで張り詰めていた緊張感がふっと緩んだ。
おかげで危なく直径3センチ程のダストを撃ち落とし損ねてしまったが、そのすぐ後に放った第二射でかろうじて破壊には成功した。
「いきなり声をかけないでよジェイ。」
わたしは不満げな声をあげ、数秒毎に飛来するダストの処理を続けつつ彼に現状を説明した。
「なるほど、やはりテロリストの偽装船ではなく何等かの機体トラブルの線が強いな。」
「この状況に耐えられる神経のテロリストがいるなら表彰したいくらいだわ。で、基地の方はどう?」
「収穫無し。少なくともこの72時間は僕ら調査団以外にこの宙域へのフライトプランは無いらしく、現在可能性の有りそうなフライトプランをピックアップ中だそうだ。」
「こちらの映像は基地へ送ってる?」
「当然調査船の方の映像をリアルタイムで司令部もモニターしてる。だけど妙に司令部の反応が遅いんだ・・」
「反応が遅い?」
わたしはその言葉の意味するところをとっさに掴み切れなかった。
「だっておかしいだろ、電子戦用の情報収集機ならともかく通常の戦闘機が最初にアレに気付いたこと、それにどうも後続部隊の出撃準備がないみたいなんだ。」
「ってことは司令部ははなから私たち2機だけで対応させるようとしてるの・・・、何か裏にありそうね。」
「どんな裏があるにしても、全てはあの機体に答えがあるって事・・・」
「さて、このパンドラの箱の中身は希望なのかそれとも絶望か・・・開けてもないと解らないわね。」
その直後だった。
パンドラの箱は自ら開き・・・・そして内からは2匹の悪魔が飛び出した。
私たちの「魂」をもてあそぼうと・・
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