「・・・・・」
わたしはその時、撃墜を覚悟した。
西暦2088年の統合政府樹立宣言から48年。
世界全体が統一の政治システム統治下になったことで、名目上国家間の戦争というものは無くなった。
実際には地域によって大小の『紛争』と呼ばれる戦闘はあったが、どれも統合政府の持つ圧倒的な軍事力の前に鎮圧されていく。
つまり、それまで多くの人々が望んだ『平和な時代』の到来である。
そんな時代においてもやはり軍という組織は存在する。
西暦2136年現在、統合政府軍は大きく通称「陸軍」「海軍」「空軍」の3つに分類される。
陸軍は陸上における治安維持や災害時の救助活動。
海軍は海洋航路上の治安維持と海難救助、それに統合政府樹立以前から中立地とされていた南極大陸の管理を行っていた。
問題は空軍である。何故なら空の上全てを管理すれば管理地域が陸海軍の管理地域と重なり、色々な問題が生じかねない。また空の上での災害といえばそのほとんどが航空機のトラブルであり、それは発生の確率というもの自体が低い上に一度発生すると墜落もしくは不時着するまでは用意に手を出せるものではない。
では空軍の管理地域とは・・・・それは宇宙。
20世紀末から始まった宇宙開発は、21世紀中頃にそれまでの国連の一機関を母胎として誕生した『宇宙開発公社』という企業によって急速に加速化した。
それに伴い宇宙開発公社の経営利益は次第に増加し、西暦2075年には遂に全世界のGNPの約25%に達する。そのあまりに巨大化した公社に対し、国連の常任理事国を中心に公社縮小案が出された。
それに対する公社側の公式なコメントは
「宇宙開発という人類の発展をあからさまに阻害する愚かな行為だ。」
と、常任理事国側と真っ向から対決する姿勢のものだった。
国連内部の政治戦争がおよそ10年続き、最終的には国連を新たに統合政府として再編して名目上宇宙開発公社の全機構・全部署を統合政府中枢部に吸収することで決着された。
国と企業・・・この政争がどちらの勝利に終わったのかは意見の分かれる部分だが、国対企業という構図の第三次世界大戦危機が回避されたのは確かなところである。
その後、旧宇宙開発公社警備部を母胎に誕生したものが今の空軍であり、その中枢機関は空軍管理地域である月面都市上におかれている。
そして・・・
パイロット養成学校を卒業したわたしは、ラグランジュ3にある統合政府空軍第23基地に着任することになった。
意外だったのはジェイ・マーシャルも同じく第23基地に着任となったこと。
同基地が統合政府軍の最大級の軍事施設の一つである事から生じた単なる偶然なのか、それとも何かの意図があってのことか・・・どちらにしても彼と互部に渡り合えるパイロットはこの基地内でもほとんどおらず、その意味ではわたしにとって練習相手に事欠く事はなくなった。
着任からおよそ半年経ち、同僚の先輩パイロット達の『新顔いびり』もだいぶなりをひそめた頃だった。
数日前に基地から約1万キロ離れた宙域で発生した鉱物資源運搬用中型宇宙船爆発事故・・・。
その原因調査団警備の任務に付いていたわたしとジェイ・マーシャルの機体がほぼ同時に正体不明の機影を捕らえた。
通常の航路からかなり離れているこの宙域に、すき好んで来ようとする者などまず考えられない。
まして現在この宙域は軍の管理下に置かれており、許可のない者の進入は禁止されていた。
「何者かしら?」
「さあね、だけどこんな破片が無数に散らばっている危険な所にまともな奴が来たがるとは思えないが・・・。」
「画像データを見る限りじゃ民間人所有機のようだけど・・・マスコミかしら?」
「外面だけではちょっと判断出来ないなぁ。」
「とりあえず呼びかけて反応をみましょう。”軍管理宙域に侵入している所属不明機につぐ、こちらは統合政府第23基地所属機、そちらの所属と軍管理宙域侵入目的を述べよ。”」
・・・しかし5分が経過しても何の反応もなかった。
「ジェイ、どう思う?」
「応答がないだけでは何とも言えない。もしかすると機体トラブルかも知れないし・・・インターセプトしてみるか?」
「了解!こちらでインターセプトするのでジェイは調査船の警備と基地への現状報告お願い。」
私は機体を所属不明機へのインターセプトコースに針路修正をして加速させた。
・・・それが事の始まりだった。
前のページに戻る
次のページに進む
目次ページに戻る
トップページに戻る