彼の話は、にわかには信じ難い内容の物だった。
「大尉は死ぬ1年前、あるプロジェクトの存在を知ったんだ。」
「プロジェクト?」
「Vasteelのもたらす超技術を利用した無人兵器群の開発プロジェクトだよ。」
それが何を意味するのか、わたしにはピンと来なかった。
無人兵器・・・もしも実現すれば戦争で人が死ぬことが無くなる。それはある意味で素晴らしいプロジェクトではないのか?
だが、それに対する彼の回答はわたしより現実的だった。
「素晴らしいか、、、、だが本当にそれで戦死者がいなくなると思うか? 実際戦争を始めるのは人間、そしてその攻撃対象となるのは人間の生活している社会の一部分。その構図自体が変わらない限り、いくら無人兵器という戦争の手段が変わっても、戦争による犠牲者は無くなりはしないだろ。」
「だとしたら、そのプロジェクトに何の意味があるっていうの? その位の理屈、軍の上層部が気付かない訳ないのに、、、」
「上層部の考えは理屈だけじゃ無いのさ、いつ起きるか分からない有事に対する備え、死の商人と呼ばれる軍需産業の保護、治安維持、何にしても人間の社会には軍という組織は無くなることはないだ。そして機械は施設と資源さえあれば簡単に量産できるし、例え破壊されても民衆は気にも止めないが、兵士は一人前に育てるまで多くの時間と費用を必要とするうえに、もし戦死したら民衆は激しく反応する。『軍事力は必要がないなら使わなければ良い』、つまりはそういう事さ。」
「ばかげてる。」
「確かにばかげてる。それは大尉もそう思ったからこそ別のプロジェクトに参加したんだ。」
「別のプロジェクト? 大尉は無人兵器開発には参加しなかったの?」
「大尉が参加したのは『Circulate-Death(死亡循環)プロジェクト』。戦死した優秀な兵士をクローン再生させ、クローン体を人としてではなく、あくまで兵器の有機制御ユニットつまりCygernetic Terminal Module(生態端末)として扱うプロジェクトだった。」
「なによそれ、益々ばかげてるわ!」
「『毒を似て毒を制す』さ、いくら機械と同じように安易に再生できる生態端末だといっても外見上は人間そのもののクローン体、その戦死は民衆に人間の兵士と同等のインパクトを与えるのさ。」
「ナイフの痛み知らない子供はナイフを玩具のように安易に使ってしまうってこと?」
「そういう過剰な軍事行為への抑止的側面も確かにある、だが実際はそのインパクトの影響をマスメディアを利用して任意方向に誘導するんだ。」
「人間のやることじゃ無いわ、、、」
「だけどいつか必ず生まれる戦争の最初の犠牲者が、甦ることの出来る一人の兵士なのか、何の抵抗する力も持たない多数の民衆なのか、その意味で大尉は意義のあるプロジェクトだと考えたんだよ。」
「毒は使い方によっては薬となり、薬は時に毒となるってことね、、、」
わたしはその時ある重大な疑問を持った。
『なぜ彼はこれだけの事を知っている』
それの疑問を彼に聞くと彼は後ろを向き、しばらく月を見上げて背中越しに話し出した。
「プロジェクト最初の契約者として、大尉が行った時の脳内マップスキャン技術はまだ未完全なもので、大尉の死後すぐ生み出された成体クローンには重度の神経障害と記憶欠如が見られた為廃棄処分された。そして次に培養された大尉の成体クローンが僕さ。僕には欠陥のある大尉の脳内マップデータではなく人為的にプログラムされたモノが使われたんだ、、、、」
しゃがみ込んだ彼の肩が、微かに震えている、、、、
「泣いているの、、、」
「、、、わからない、、、今のこのどうしようもなく溢れてくるる感情も、さっきのパーティーでの愉しさも、きみとの模擬戦の時の興奮も、そして大尉と同じトップエースになれなかった時には最初のクローン体と同じ運命の待つ宿命の恐怖、、、全てが僕自身の感情なのか、それともただのプログラムどおりの行為でしかないのか、、、そもそも僕という存在自体なんなのか、、、」
わたしはしゃがみ込んだ彼の頭をそっと抱きしめた。
「あなたが何者だろうと関係ないじゃない。例えロバート・マーシャルのクローンだろうとプログラムだろうと、今はジェイ・マーシャルとしての意志があるじゃない、、、それを大切にしなきゃだめよ、、、、、」
やはり外見はどうあれ彼は生まれて数年しか生きていない子供なのだ。
月の世界が終わり、眩しい朝日のさす世界が始まった。
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