21人目の契約者


ファースト:4

 わたしはパイロット養成学校の全カリキュラムを一年で終え、第73期生の主席として卒業した。
 成績はほぼ全てAプラスの最高ランクであり、卒業の際に教官の一人からは
「君のような天才は初めて見る。もし戦場で君が味方ならこれほど頼りになる者はいないだろうし、逆に敵なら私はその場から逃げ出すだろう。」
 と笑いながら言われた。

 だが、わたし自身は主席卒業を全く喜べずにいた。

 真っ先に喜びを伝えるはずだった両親がこの世にいない・・・それもあるが、最大の原因は第73期生次席卒業のあいつの存在だった。

 ジェイ・マーシャル

 彼は卒業式典の終わった今、同期卒の友人や数人の教官達と談笑している。
 彼の成績もほぼ全てがAプラスであり、総合成績はわたしを抜いおり、本来の主席卒業は彼のはずだった。

 そう、あの模擬戦でのペナルティさえ無ければ・・・。

 壁の花を気取っていたわたしの前に、気が付くと彼がワイングラスを二つ持って立っていた。
「せっかくの卒業パーティーで、主席卒業生が壁の花かい?」
「・・・・・・・」
「あっちで皆と一緒に飲もうよ。」
「・・・・・・・」
「それとも僕のエスコートじゃあ不満かい。」
「・・・・・・・」
 わたしは彼の差し出したワイングラスを受け取り、にこやかに微笑んで見せた。誘いにのったと思ったのだろう、彼も微笑み返してわたしの手を取ろうと右手を差し出してきたが、わたしは彼の顔に赤ワインをかけ、そのままパーティー会場を後にした。






 黄色っぽい満月が夜空に浮かんでいる。

 辺りは静寂に包まれ風の音さえ聞こえない。

 わたしは何をしているのだろう・・・。

 一年前、そう今日の様な満月だった。
 両親の幻と会い、そして自らの心に誓った。

 『この空を手に入れる・・・』

 静寂の中、手を伸ばせばとどきそうな気がして腕を伸ばしてみる。だが実際には届く筈もなく、月にかざした手の間から月光が瞳に降りかかるだけ。
 昔の人々は月の光に魔力があると信じていた。確かにこの美しい月をみているとそう思えてくる。一年前、月の魔力はわたしに飛ぶ勇気をくれた。しかし翼までは与えてくれなかった。
 わたしは未だ雲を越えられず、雲の下を飛んでいる。

 ジェイ・マーシャルと言う名の雲の下を・・・。

 今夜の月もわたしに翼を与えてはくれないだろう。
 だが、その優しい月の光は安らぎを与えてくれる・・・。






 ・・・・・いつのまにかわたしは眠ってしまっていたらしい。
 堅い土の上で寝たからだろう、体の所々が少し痛む。
 上半身を起こしてかるく伸びをした時、側に人が立っていることに気づいた。

「君は何故パイロットを目指している。」

 わたしは初めその男がだれか分からなかった。

「もう一度聞く、君は何のために飛んでいるだ。」

 ・・・夜の闇でよく顔は見えない、だが何処かで聞いたことの有る声だ。・・・教官の誰かか? いや、違う・・・・・ジェイ・マーシャル?
「君は以前私に問いかけたな、何故パイロットを目指すのかと」
 確かに彼だが、いつもの彼じゃない。
「今度は私の方から聞く、君は何のために飛んでいるんだ。」
 わたしの知るジェイ・マーシャルは常に笑顔を絶やさない男だった。だが今わたしの前に立っている男には笑顔どころか一切の感情が感じられない。そう、まるで精巧に造られた人形の様に無表情なのだ。
「だったら、まずあなたの本当の答が先だわ。あなたは何故パイロットを目指す、そしてあなたは何のために飛んでいる。」
 月を背にして立っているので彼の瞳はハッキリとは見えない。だがそれでもその瞳に見つめられているわたしは物凄いプレッシャーを感じ、気が付くと手に汗を握っていた。



・・・・・・・沈黙・・・。


 急にそれまでのプレッシャーが消えたかと思うと、彼は静かに話し出した。

「・・・・・ロバート・マーシャル大尉と言う男を知っているか。」
 聞き覚えのある名前・・・そう、たしか父が仲間のパイロット達と話しによく出てきた名前だ、だが何故その名前が出てくる? それに・・・
「・・・確か5年前に機体トラブルが原因で死んだ、軍のエースパイロット。」
「そう、マーシャル大尉は死んでいる・・・はずだった。」

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